焼肉店や精肉店に行くと「A5等級」「A4ランク」といった表示がある牛肉を見かけることはないでしょうか。
最上級といわれるA5ランクの牛肉は、とびきりおいしいものだと考えている人も多いかもしれません。
しかしA4やA5はおいしさを表すランクではないのです。
では牛肉の等級とはどのように決められ、何を表すものなのでしょうか。
この記事では牛肉のランクについてご紹介します。
「A5」はおいしさを表すランクではない
牛肉を購入するときに見かける「A4ランク」「A5等級」といった表示が意味するのはどんなことかご存知でしょうか?
よく、牛肉は5段階に分かれており、1から5に向かうほどサシが多くなり、おいしい牛肉だ、といったことを聞いたことがある人もいるかも知れません。
しかし、牛肉のランクが表しているものはおいしさの指標ではなく、精肉店などが肉を仕入れるときに、どんな牛肉なのかを知るためのものなのです。
牛肉のランクは「歩留等級(ぶどまりとうきゅう)」と「肉質等級」の2種類を表す記号になっており、全部で15段階に分かれています。
ランクが高いからといって、その牛肉がおいしいとは限らないことを覚えておきましょう。
「A5」が表す2つの等級とは
では実際に「A5」と表示される牛肉はどのようなものなのか、2種類の等級について紐解いていきましょう。
A5、という等級は2つの等級を表すものだと先に述べましたが、アルファベットのAと数字の5がそれぞれ別の等級を表すものになります。
アルファベットは「歩留等級」、数字は「肉質等級」を表しますが、それぞれランク付けの方法が決まっています。
ここからは少し専門的になりますが、実際に等級がどのように決まるのかについて解説します。
アルファベットが示す「歩留等級」とは
当店をはじめ、精肉店やスーパーの精肉部門などが、実際に牛肉を買い付けるときは、牛一頭をさばいて皮や内臓、足や頭を取り除いた「枝肉(えだにく)」になったものを仕入れます。
消費者の手元に届くまでには、枝肉からさらに骨や余分な脂を取り除き、部位ごとに切り分けた「部分肉(またはカット肉)」を作りますが、枝肉からどのくらい部分肉がとれるかを示すものが歩留等級になります。
歩留等級がいいもののほうが、枝肉から無駄なく部分肉がとれるため、仕入れ量を図ることや価格を決めるうえでも等級は大切な要素になります。
歩留等級はA~Cの3段階で表され、それぞれ下記のように基準値が決まっています。
歩留等級 | 歩留基準値 | 歩留の評価 |
A | 72以上 | 標準より良い |
B | 69~72未満 | 標準程度 |
C | 69未満 | 標準より劣る |
では、歩留等級の判断材料となる歩留基準値はどのように決めるのでしょうか。
歩留基準値は、枝肉の第6~7肋骨間にあるバラやロースとなる部分の断面積をもとに、数式を用いて算出します。
数式は下記のような複雑なものです。
歩留基準値=67.37+[0.130×ロースの断面積(cm2)]+[0.667×バラの厚さ(cm)]-[0.025×冷えた枝肉半分の重さ(kg)]-[0.896×皮下脂肪の厚さ(cm)]
この数式から分かることは、ロースやバラがたくさん取れる枝肉ほど歩留等級が高くなるということです。
そして、歩留基準値の計算結果が75ならA、65ならCが歩留等級に分類されることになります。
ただし、歩留基準値が75だからといって、枝肉の75%が部分肉になるというわけではないので注意しましょう。
この公式を当てはめて歩留基準値を算出する肉牛の種類は「黒毛和種」「褐色和種」「日本短角種」「無角和種」と、この4種の交雑牛となります。
これは日本の牛肉のみになるため、外国産の牛肉は歩留等級でランク付けすることはありません。
数字が表す「肉質等級」とは
もう一つの等級である肉質等級についても解説します。
1~5の数字でランク付けする肉質等級は、名前の通り牛肉の肉質を表しています。
実際に評価されるのは「脂肪交雑」「肉の色沢」「脂肪の色沢と質」「肉の締まりときめ」の4つの項目です。
この4つをそれぞれ5段階で評価しますが、4つの項目から平均値を算出するのではなく、評価した中の一番低い数字がその牛肉の肉質等級になります。
例えば、1つの項目を除いてすべてが5で、1つだけが3だった場合、その牛肉の肉質等級は3になります。
では、肉質等級を決める4項目はどのように評価するのか、さらに探っていきましょう。
1つめ、脂肪交雑
脂肪交雑は牛肉への脂肪の入り方を指します。
サシの量を表すと考えるとわかりやすいかもしれません。
評価はB.M.S.におけるNo.1~12の12段階になりますが、下記の図のように分類します。
B.M.S.は「Beef Marbling Standard」の略で、適用については基準を明確にするため、「写真による脂肪交雑基準」に基づいて判定することになっています。
写真で上の図のように12段階に分けたものを、下記の5段階の評価に振り分けます。
これが脂肪交雑の等級になります。
等級 | 脂肪交雑(サシ | B.M.S.のNo. |
---|---|---|
5 | かなり多い | No.8~No.12 |
4 | やや多い | No.5~No.7 |
3 | 標準 | No.3~No.4 |
2 | やや少ない | No.2 |
1 | ほとんどない | No.1 |
2つめ、肉の色沢
肉の色沢は色合いや光沢のことを指します。
色沢はB.C.S.における7段階で判定し、B.M.S.と同様に5段階へと振り分けます。
B.C.S.は「Beef Color Standard」の略で、下記のチャートを用います。
チャートをもとに振り分けたものに光沢を加味して5段階に落とし込み、その数字が肉の色沢の評価となります。
等級 | B.C.S.のNo. | 光沢 | |
---|---|---|---|
5 | かなり良い | No.3~No.5 | かなり良い |
4 | やや良い | No.2~No.6 | やや良い |
3 | 標準 | No.1~No.6 | 標準 |
2 | 標準に準ずる | No.1~No.7 | 標準に準ずる |
1 | 劣る | 等級5~2以外 |
3つめ、脂肪の色沢と質
脂肪の色沢と質も肉の色沢と同じように、脂肪の色をチャートをもとに7段階に振り分け、それに光沢と質を加味して5段階に分けます。
目安となるチャートはB.F.S.で、「Beef Fat Standard」の略になります。
等級 | B.F.S.のNo. | 光沢と質 | |
---|---|---|---|
5 | かなり良い | No.1~No.4 | かなり良い |
4 | やや良い | No.1~No.5 | やや良い |
3 | 標準 | No.1~No.6 | 標準 |
2 | 標準に準ずる | No.1~No.7 | 標準に準ずる |
1 | 劣る | 等級5~2以外 |
4つめ、肉の締まりときめ
他の評価のように写真やチャートを用いず、目視で確認して評価が決まるのが肉の締まりときめの等級です。
実際に目で見て下記の5段階に振り分けて等級を決めます。
等級 | 締まり | きめ |
---|---|---|
5 | かなり良い | かなり細かい |
4 | やや良い | やや細かい |
3 | 標準 | 標準 |
2 | 標準に準ずる | 標準に準ずる |
1 | 劣る | 粗い |
牛肉の等級は見た目が命
少し専門的な内容でしたが、ここまで見てきて気がついたことはあるでしょうか?
歩留等級は実際にどのくらい部分肉がとれるかを評価したものですが、1~5の数字で表される肉質等級は、基本的に見た目で等級が決まります。
もちろん、見た目である程度判断できるかもしれませんが、見た目が良いからといって必ずしもおいしいとは限らないのです。
実際、評価基準の中に食味に関するものはありません。
ではなぜ「A5の牛肉はおいしい」といわれるかといえば、霜降りの多い牛肉が一般に好まれ、「霜降り=A5=最高ランク」となるからです。
おいしいかどうかは個人の好みによっても変わるため、等級の良いものが必ずしも万人の「おいしい」だとは限りませんが、等級はある程度のおいしさの保証のようなものだといえるでしょう。
等級の良い牛肉が高価な理由
では、美味しさを表すランクではないA4やA5といった高ランクの牛肉が高いのはなぜなのでしょうか。
それは需要と供給の関係が大きいといえるでしょう。
霜降りの多い、肉質等級でいう5や4のものが一般に好まれ、需要が高い分値段も高くなるのです。
特にサシが多いことで知られる松阪牛や神戸牛などは生産量も少なく、その中で等級の高いものはさらに高額になります。
もちろん、「この牛のこのランクは美味しい」という長きに渡って形成された味の評価も需要の一つです。
「おいしい牛肉」の定義は変わりつつある
しかし近年は日本短角種や褐毛和種のように、赤身がおいしいとされる牛肉も好まれるようになり、肉質等級が低くても高値がつくようになっています。
おいしいとされる牛肉の定義も霜降りがすべてではなくなり、新たな価値観も生まれつつあるのです。
先に述べたように、等級はあくまで目安であり、おいしさを保証するものではありません。
おいしい牛肉を食べたいと考えるのなら、どのくらいサシの入ったどこのブランドの肉がいいのかなど、自分にとっての美味しいお肉が何かを理解することが一番の近道になるといえるでしょう。
そういった意味で等級は、どのような牛肉が好みなのか、探すための手がかりにするのが良いかもしれません。
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