お店で牛肉を購入するときに「和牛」とラベルに書いてあるものと、「国産牛」と書いてあるものを見かけることはありませんか?
似たような表記ではありますが、和牛と国産牛は違うもののことを指します。紛らわしく見えるこのふたつの牛肉はどのように違うのでしょうか。
この記事では和牛と国産牛の違いについて解説します。
和牛と国産牛は同じもの?
スーパーなどで牛肉のパックを手に取ったときに、「和牛」と書いてあるものと「国産牛」と書いてあるものがあったとき、そのふたつがどういうものか答えられるでしょうか?
そもそも同じもののことを指すのでしょうか。
答えからいうとノーになります。
同じ牛肉ではありますが、表記の違うこのふたつの牛肉は全く違うものです。
ではいったい何が違い、どうしてこの表記になっているのでしょうか。
早速紐解いていきましょう。
和牛とは
和牛とは、食肉として取り扱われる牛肉のうち、日本の牛肉の主要品種となる品種である「黒毛和種」「褐毛和種」「日本短角種」「無角和種」の4種類と、その4種類を交雑した「交雑種」の計5種類のことを指します。
これは日本国憲法の「食肉の表示に関する公正競争規約」で定められており、上記以外の牛肉を和牛と表示することは法律で禁止されています。
また、「和牛等特色のある食肉の表示に関するガイドライン」という、2007年に農林水産省が公表したガイドラインによると、先に述べた5種類の牛肉は家畜改良増殖法という法律で定められている登録制度などで品種が証明でき、牛トレーサビリティ制度により日本で生まれて肥育された牛だということが確認できることが示されています。
つまり、日本の牛肉の主要品種で、日本で生まれ育ったことが証明できたり、確認できたりすることが、和牛を名乗るための条件となっているのです。
ちなみに、海外では「Wagyu」と呼ばれる和牛の遺伝子を持つ牛が生産されています。
確かに遺伝的には同じかもしれませんが、日本の法律では日本で生まれ育つことも和牛を名乗るための条件となっているので、海外の「Wagyu」は日本で「和牛」を名乗ることはできません。
日本の「和牛」が海外に出荷されるときは「和牛統一マーク」というマークがつけられることが決まっており、その点でも海外の「Wagyu」とは一線を画しています。
国産牛とは
では、国産牛はどのような牛肉のことを指すのでしょうか。
これは和牛を名乗れる決まりにそのヒントがあります。
和牛と名乗ることができるのは「品種」に加えて「日本で生まれ育った牛であること」が条件となっています。
例えば、海外で生まれた子牛を日本に輸入して育てた場合、和牛は名乗れないことになります。
しかし、牛肉として出荷ができるには、時間をかけて肥育することが必要です。
牛肉として出荷できるようになるまで長い時間日本で育ち、その期間が海外で育てられた期間を上回り、日本で最も長く育てられたものは「国産牛」として分類されます。
これは「食品表示法」に基づいて決められた「食品表示基準」によって定められています。
例えば、アメリカで生まれて8ヶ月間育った牛を、日本の畜産会社が輸入して、12ヶ月間日本国内で育てたとします。
すると、日本で飼養した期間が4ヶ月長くなることから、この牛は「国産牛」として扱われます。
逆に、日本で6ヶ月育った牛を、アメリカの畜産会社が輸入して14ヶ月間アメリカ国内で育て、食品会社がお肉として日本へ輸入したとします。
この場合はアメリカで育てた期間が8ヶ月上回ることから、この牛は「輸入牛」として扱われることになります。
また、それぞれの国で同じ期間ずつ飼養された場合は、最後に育てられていた地域がラベルに記載されることになっています。
例えば、アメリカで8ヶ月、オーストラリアで6ヶ月、日本で8ヶ月育てられた牛がいるとします。
この場合どのような表記になるかというと、最後に育てられた日本が生産国として記載されることになり、「国産牛」として扱われることになります。
日本で生まれた牛でなくても、日本で長く育てられているか、最終的に日本で育っているかが「国産牛」を名乗る条件になるのです。
ちなみに、日本ではホルスタイン種やジャージー種などの乳用種を輸入して搾乳し、搾乳が終わったものを食肉用として出荷したり、黒毛和種などと交雑することも多く、国産牛の半数以上がこうした牛なのだそうです。
都道府県名だけが記載された牛肉は和牛?それとも国産牛?
さて、和牛と国産牛の違いがわかったところで、もうひとつの疑問が出てきます。
よくスーパーなどで「鹿児島県産」「宮崎県産」など、都道府県名がラベルに記載された牛肉を見かけます。
国産牛や和牛ではなく、都道府県名が記載されているものはどちらに分類されるのでしょうか。
また、「松阪牛」や「神戸牛」とブランド名が表示されているものもよく見かけます。
これは本当に本物なのでしょうか。
食品表示法では、国産牛に限りブランド名や都道府県名にある地名を表示することで「国産牛」という表示の代用ができることが決められています。
つまり「松阪牛」は三重県の松阪という地名を表示していることになるので、国産だということが分かるためOKということです。
ただし、ブランド牛の場合、表示された地名以外の土地でもっとも長く飼養されている場合は、その土地の地名も併記しなければいけない決まりになっています。
このように、地名ひとつとっても厳密に法律で明記が定められているので、安心して牛肉を購入できるのです。
本当に国産かどうかの手がかり「個体識別番号」
和牛や国産牛の表示が紛らわしく感じて、今ひとつ信頼できないと感じる人もなかにはいるかも知れません。
そんなときに便利なのが「個体識別番号」です。
日本国内で流通する牛肉の場合、必ず10桁ある個体識別番号が付与されています。
牛肉を販売する業者やお店はこの番号を誰もが見られるところに表示する義務があり、消費者が気になったときに、その牛の出自が追跡できる仕組みになっています。
この番号はBSE(狂牛病)の対策として定められた「牛トレーサビリティ法」によって付与されることになったもので、この番号を手がかりにその牛肉がどんなものかを調べられるようになっています。
では、個体識別番号がわかったとして、どこでどのようにその牛肉のことを調べられるのでしょうか。
個体識別番号を検索してみよう
自分の購入しようとしている牛肉の個体識別番号がわかったら、個体識別番号を管理している「独立行政法人家畜改良センター」の「牛の個体識別情報検索サービス」にアクセスしてみましょう。
このページの「個体識別番号の検索」から、手元にある個体識別番号を入力して検索ができます。
途中の手順は省略しますが、最終的にこのように結果が表示され、どこでその牛が生まれ、どこへ移動し、どこで育ったのかが分かる仕組みになっています。
ちなみに輸入牛の場合、輸入国に国名が表示されます。
このように、安心して牛肉が食べられるようにきちんと仕組みが整っており、畜産に関わる人達が法律を遵守して制度をしっかりと運用しているのです。
違いと仕組みを知って安心しておいしい牛肉を!
一見同じように見える「和牛」と「国産牛」ですが、きちんと違いがあり、それが法律で定められていることがおわかりいただけたかと思います。
表記されるさまざまな違いを理解しつつ、安心しておいしく牛肉を楽しみたいですね。
まとめ
和牛・・・日本で生まれ育った「黒毛和種」「褐毛和種」「日本短角種」「無角和種」の4種類と、その「交雑種」
国産牛・・・生まれに関係なく、日本で長く育てられた、または最後に日本で育った牛のこと
輸入牛・・・生まれに関係なく、外国で長く育てられた、または最後に外国で育った牛のこと