牛肉をお肉屋さんやスーパーで購入するとき、ラベルに「個体識別番号」という10桁の数字がついていることがあります。この10桁の番号がついたのにはきちんと理由があり、番号を調べれば、牛がどこで生まれ育ち、どのように加工されてきたかが分かるようになっています。この個体識別番号とはなんのためにつけられ、どのように調べると情報が出てくるのでしょうか。この記事では牛肉の個体識別番号について解説します。
牛肉の「個体識別番号」とは?
牛肉のパックに貼られているラベルに、個体識別番号として10桁の数字が書いてあるものを見たことはありませんか?
これは、国内のどこで育てられた牛がいつどのようにどこの会社が食肉処理したかや、牛肉の種別が分かるようにつけられた番号です。
個体識別番号を牛に付与するこの制度を「牛トレーサビリティ制度」といいます。
この牛トレーサビリティ制度があることで、特定の牛肉を販売する業者は、飲食店であれば店内のわかりやすいところに番号を掲示したり、スーパーや精肉店であればパックのラベルや店頭などに個体識別番号を表示しなければいけないことになっています。
ただし、例えば同じ牛からとれたお肉でも、ひき肉やすじ肉、コンビーフなどの加工品になる場合は番号の表示は必要ありません。
個体識別番号から牛のさまざまな情報を知るには、独立行政法人家畜改良センターのサイト(https://www.id.nlbc.go.jp/top.html)にアクセスし、個体識別番号を入力・検索すれば手元に届くまでの履歴が表示されるようになっています。
牛トレーサビリティ制度ができた理由
日本で肉専用種の牛が生まれ育ち、食卓に届くまでの履歴をたどることができる牛トレーサビリティ制度ができたのには大きな理由があります。
もとはというと、BSE(牛海綿状脳症)という牛の病気が世界的に大流行した際に、この制度が生まれました。
一般にはBSEというよりも「狂牛病」と言ったほうが馴染みがあるかもしれません。
BSE(牛海綿状脳症)とは
BSEは「Bovine Spongiform Encephalopathy」の略で、BSEプリオンという病原体に感染することで、牛の脳に空洞ができてスポンジのようになってしまう病気のことを指します。
1986年にイギリスで初めて発見された感染症で、現代の医療では治療法が確立されていない病気でもあるため、感染が確認されたら牛を処分するしか方法はありません。
牛がBSEに感染しても、感染してすぐの間は特に問題がなく飼育ができ、声をかけたときに反応が少し遅れる程度しか症状が出ないため、気づかずに育て続けてしまうことも珍しくありません。
症状が大きく現れるようになるのは感染してから4~6年ほど後のことで、その時期になると物音や接触に対して過敏な反応を示すようになり、異常行動を起こしたり、立てなくなってしまうなどの運動機能の異常が現れ、やがて死んでしまいます。
BSEの感染の原因となっているのは、BSEに感染した牛のくず肉や骨などを加熱処理して粉末にした「肉骨粉」を食べることです。
乳用種の牛の乳量が増えたり、質が良くなるために餌として昔から肉骨粉は与えられていましたが、それが原因で1990年代にはイギリスでBSEが大流行し、多くの牛が処分されました。
きちんと解明されてはいないものの、同様に人や動物への経口感染の可能性もあり、BSEにかかった牛の肉が含まれたキャットフードが原因で猫が感染したという報告もあります。
牛トレーサビリティ制度に関する日本の法律
イギリスでのBSEの大流行は対岸の火事ではなく、日本でもBSEに感染した牛が発見され、大きな衝撃となりました。
2001年9月に最初に感染した牛が見つかったと報じられてから、その後2009年までの間に36頭の感染牛が発見されました。
日本ではBSEが拡大しないように検査体制を確立させるとともに、牛がどこで生まれ育ち、誰がどのように食肉処理したかが分かるように、10桁の個体識別番号を付与する法律ができたのです。
この法律は「牛肉トレーサビリティ法」といい、2003年6月に成立したもので、2004年12月以降に食肉処理されて出荷された国産牛肉にはすべて個体識別番号が表示されるようになりました。
牛は牧場にいるとき、黄色いタグを耳につけていますが、このタグも個体識別番号が記されたものです。
BSEは感染すると、そのときはわからなくても何年かしてから発症するため、肥育している最中に感染して、食肉処理するときには別の牧場にいる場合もあります。
また、BSEだと気づかないうちに食肉処理されて、牛肉として売られてしまう可能性もあるのです。
牛肉トレーサビリティ法では、何が原因でどこでBSEに感染し、発症したのかを追跡できるようになっており、消費者が安心して安全な牛肉を購入するためにも必須の法律だといえるでしょう。
実際に個体識別番号を検索してみよう
実際に自分の購入したお肉や、飲食店で提供している牛肉に個体識別番号があった場合、個体識別番号で生育や食肉処理の履歴を見ることができます。
これを実際に検索してみましょう。
まず、独立行政法人家畜改良センターのサイト(https://www.id.nlbc.go.jp/top.html)にアクセスします。
サイトにアクセスすると「個体識別番号の検索」という緑のボタンがあるので、これをクリックします。
次に同意確認を求められますので「同意する」の青いボタンをクリックします。
すると牛の個体識別番号検索サービスのページが開きます。
右上の黒い入力欄に個体識別番号を入れ、検索ボタンをクリックしましょう。
検索結果が表示されます。いつ生まれたどんな品種の牛で、いつどこに移動し、最終的にどこでと畜されたのか、日付や場所、会社名や氏名などがわかります。
これはもちろん、海外からやってきて日本国内で育つ国産牛にも適用されているため、海外から来た場合は国名や品種が表示されるようになっています。
個体識別番号はこんなことにも使われています
個体識別番号は消費者が安心して安全な牛肉を買い求めるときの役に立つのはもちろんですが、別の使い方もされています。
それが、牛を担保として融資を受ける「動産担保融資(ABL)」です。
通常、ビジネスのための融資を受けるには、土地や建物などの不動産を担保にしてお金を借りることになりますが、動産担保融資では文字通り動産を担保としたものです。
動産は担保にすると管理が大変で、自分でいちから登記などを行わなければならなくなりますが、牛の場合は個体識別番号が整備されているため、比較的容易に管理ができるのです。
そのため、牛を担保にした動産融資を金融機関が行っています。
牛を育てていくにはさまざまなコストが掛かります。
日頃の餌代や燃料費、牛舎の建設費用、出荷にかかる送料などが生産者の負担になりますが、牛の頭数が多くなればなるほど、費用は大きくなります。
そうしたときに動産担保融資を利用できれば、大きな負担を長期的に償却することができるようになります。
安心・安全の国産牛肉をもっと食べよう!
ここまで解説したように、日本の牛トレーサビリティ制度は非常に厳密で、牛の誕生からと畜されるまでがどこで行われたのかの履歴を徹底して追うことができるようになっています。
牛トレーサビリティ制度が出来上がったのは、BSEという食の安全を揺るがす感染症が原因となりましたが、2009年に最後の感染牛が出て以来、2024年まで発見されていません。
安全な牛肉をより安心して食べられるように作られた制度でもあるので、もしも「このお肉はどこからきたのかな?」と気になったら、個別識別番号を検索して確認してみるといいでしょう。
個体識別番号を活用して、より安心・安全に牛肉を楽しみたいですね。